別科目の単位で教育実習を代替・振替する方法があります。高等学校「工業」の特例と教育実習の実務振替といわれるものです。
1 高等学校「工業」の特例
教育実習なしで免許状を取得できる方法として、わりとよく知られています。
教育職員免許法 附則11
別表第一の規定により高等学校教諭の工業の教科についての普通免許状の授与を受ける場合は、同表の高等学校教諭の免許状の項に掲げる教職に関する科目についての単位数の全部又は一部の数の単位の修得は、当分の間、同表の規定にかかわらず、それぞれ当該免許状に係る教科に関する科目についての同数の単位の修得をもつて、これに替えることができる。
要するに、教育実習3単位を、工業の「教科に関する科目」のいずれか3単位で代替できるのです。
したがって、基礎資格(学士の学位を有すること)と「教科に関する科目」で高等学校「工業」の免許が取得できるということに。大学在学中は教員になるつもりがなく、教職課程をとっていない場合でも、工学部に在籍してまじめにやっていれば、「教科に関する科目」についてはそれなりに必要単位を修得しているはずなので、工学部出身の一般社会人にとっては比較的ハードルの低い方法ではあります。
ただ、教職課程をとっていない場合、ほぼ例外なく「職業指導」の単位が未修得で残っています。教員になるつもりのない学生が、「職業指導」なんてわざわざ履修しませんよね。
問題は「職業指導」は通信で単位修得できないことです。通信課程で「職業指導」を開講している大学はありません。
そこでどうするかというと、いわゆる科目等履修生として通学課程で「職業指導」を履修し、単位修得することになります。
ただこれにも、いろいろ制限というか条件がありまして、多くの大学が「科目等履修生の、教員免許取得に必要な科目の履修は、卒業生に限る」といった履修制限を設けています。
このような履修制限を設けていないのは、
- 工学院大学 教職特別課程履修生
- 岡山理科大学 教職特別課程履修生
の2校しかありません(2015年調査時点)。
工学院大学では「職業指導」は4単位で開講されており、新宿キャンパスの夏期授業(集中講義)2週間で修得できます。岡山理科大学の場合は詳細がわからないのですが、Webサイトに「補講等のため集中講義を行う場合があります。日程については、随時通知します」と記述があるので、工学院大学と同様の取扱いと思われます。
ちなみに高校工業の場合、「教育職員免許法施行規則」第五条で、「職業指導」は1単位以上必要と定められています。
2 教育実習の実務振替
教育職員免許法施行規則の第6条表備考10で、いわゆる「教育実習の実務振替」という措置が定められています。これは、教員として現場での勤務経験1年につき教育実習1単位を、教職に関する科目の単位で代替することができるというもの。
教育職員免許法施行規則の第6条表備考10
中学校又は高等学校の教諭の普通免許状の授与を受ける場合の教育実習の単位は、中学校又は高等学校において、教員として1年以上良好な成績で勤務した旨の実務証明責任者の証明を有する者については、経験年数1年について1単位の割合で、表に掲げる中学校又は高等学校の教諭の普通免許状の授与を受ける場合の教職に関する科目(教育実習を除く)の単位をもつて、これに替えることができる。
教育実習の単位が必要なくなるということで、非常にありがたいように思えますが、問題は、施行規則の条文中にある「教員として」の態様。簡単に言うと、勤務場所が学校であっても、自分の仕事の内容が法に定める「教員」に該当するかどうかです。
法令によって幅はあるものの、 「教員」とは概ね教頭、教諭及び講師と定義されており、実習助手は含まれません。免許状を持っていなくても実習助手になることは可能ですが、実習助手は「教員」とみなされないので、この「教育実習の実務振替」は使えないのです。
逆に言えば、すでに何らかの教員免許状を取得していないと、この方法は使えないということですね。たとえば、高校免許を取得したあと、高校教諭として3年以上の勤務経験がある人が中学免許を追加取得する、といったケースでしかこの方法は活用できません。
また、経験年数のカウントにも注意が必要です。臨時的任用や非常勤の場合、週時間数に応じて勤務期間に一定の係数(最低で0.5程度)を乗じた数値が免許申請上の経験年数になります。
いずれにせよ、実際に「教育実習の実務振替」を活用しようとする際は、都道府県教育委員会に問い合わせるのが確実です。
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