わりとよく知られた話なんですが、高等学校「工業」の教員免許は、教育実習をしなくても取得することができます

いわゆる「『高校工業』の特例」といわれている方法で、根拠規定は教育職員免許法の附則第11項です。

別表第一の規定により高等学校教諭の工業の教科についての普通免許状の授与を受ける場合は、同表の高等学校教諭の免許状の項に掲げる教職に関する科目についての単位数の全部又は一部の数の単位の修得は、当分の間、同表の規定にかかわらず、それぞれ当該免許状に係る教科に関する科目についての同数の単位の修得をもつて、これに替えることができる。

法律の条文って、例外なく難解なんですが、この規定に基づくと、大学を卒業して学士の学位をもっていれば、教育実習を含む「教職に関する科目」の単位はいらないことになります。

このように書くと、なんだか怪しい裏技めいたイメージがつきまといますが、これは免許法第五条別表第一による正規の免許状取得方法です。

ちなみに「教職に関する科目」の内容は次のとおり(高校一種の場合23単位)。

免許法上の区分 科目例
第二欄 教職の意義等に関する科目 教職の意義及び教員の役割 教職概論
教員の職務内容
進路選択に資する各種の機会の提供等
第三欄 教育の基礎理論に関する科目 教育の理念並びに教育に関する歴史及び思想 教育原理
幼児、児童及び生徒の心身の発達及び学習の過程 教育心理学
教育に関する社会的、制度的又は経営的事項 教育社会学
第四欄 教育課程及び指導法に関する科目 教育課程の意義及び編成の方法 教育方法・課程論
特別活動の指導法
教育の方法及び技術
各教科の指導法 工業科教育法
道徳の指導法 道徳教育の研究
生徒指導、教育相談及び進路指導等に関する科目 生徒指導の理論及び方法 生徒指導
 進路指導の理論及び方法
教育相談の理論及び方法 学校カウンセリング
第五欄 教育実習 教育実習セミナー
教育実習Ⅰ
第六欄 教職実践演習 教職実践演習

「教科に関する科目」は、教育職員免許法施行規則第五条には「工業の関係科目」「職業指導」とだけ記されており、これは大学によってまちまちです。

ところで、「『高校工業』の特例」ができた背景には、かつての高度成長期、大学の教職課程を経て教員免許を取得しても、待遇のよい民間企業に人材が流れてしまい、工業科教員の確保が難しかったことがあげられます。また、通信工学・通信技術系の科目を開講している高校では、無線技士等の免許を与えるために一定数以上の有資格教員が必要であり、無線従事者または海技士資格保持者を優遇して教員免許を与えたいという事情もあったようです。

実は管理人の知り合いにも、この特例を使って工業の免許を取得し、採用試験にも合格して、今はバリバリの教員として働いている元SEがいます。

某地方国立大学工学部卒で、転職時の年齢は30代半ば。彼の場合、教員免許取得のためには、「日本国憲法」2単位と「情報機器の操作」2単位と「職業指導」4単位の修得が必要でした。

「日本国憲法」「情報機器の操作」は教育職員免許法施行規則第66条の6に規定された科目です。これは通信制大学での修得が可能ですが、問題は教科に関する科目である「職業指導」。今も昔も通信で単位修得する方法がありません。

やむなく彼は、1週間の勤続褒章休暇を使って、出身大学で夏季集中講義を受け、単位修得したそうです。

集中講義の他には、科目等履修生になって修得する方法もありますが、いずれにせよ「職業指導」の単位は、大学に通って修得するしか方法はないのが現状です。